一方、日本のベンチャーキャピタルは?
一方の日本のベンチャーキャピタルですが、アメリカのベンチャーキャピタルのようなベンチャーキャピタルは、ほぼまったく存在していません。アメリカのベンチャーキャピタルを「山師の集団」とするならば、日本のベンチャーキャピタルは「エリート銀行マンの集団」です。リスクを避け、顧客から預かったお金をしっかりと守り、安全な運用を目指すといったイメージです。
アメリカのベンチャーキャピタルが、ハイリターンを求めて地べたを這いずり回り、ジェネラル・パートナーが率先して投資先を開拓する一方、日本のベンチャーキャピタルは、あたかも銀行の窓口でお客がやってくるのを待ち構え、やってきたら融資の相談を受け付けるといったイメージです。
実際のところ、日本のベンチャーキャピタルの多くは、証券会社、銀行、保険会社といった金融機関を母体に誕生しています。日本で一番大きいベンチャーキャピタルは、日本で一番大きい証券会社を母体としています。また、メガバンクや、大手保険会社からもベンチャーキャピタルが数多く生まれています。日本の多くのベンチャーキャピタルは、誕生した時より金機関のDNAを持っており、それを今に至るまで維持し続けているという感じがします。
まるで銀行員のような日本のベンチャーキャピタリスト
実際に、日本のベンチャーキャピタルに投資を検討してもらうプロセスは、銀行で融資の相談をするプロセスと酷似しています。銀行に融資を申し込む時と同じように、決算書、事業計画書、製品製造計画、マーケティング計画などの書面の資料を提出し、ベンチャーキャピタルに「審査」をしてもらいます。申し込みの多くはこの段階で振り落とされます。「審査」をクリアすると次の段階へ、多くは「投資検討委員会」などの検討会議へ進み、そこでもさらに多くの企業が振り落とされます。
最終的に投資が実行される確率は極めて低く、一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンターがまとめた数字によると、2019年の1年間に我が国のベンチャーキャピタルが投資した件数は、わずか1436件にとどまっています。金額にして2164億円、アメリカのわずか50分の1です。
獲物を求めてさまようアメリカのベンチャーキャピタリスト
アメリカのベンチャーキャピタルは、例えるなら獲物を求めてさまようハンターです。ジャングルをさまよい、獲物を見つけると俊敏に動き、直ちに仕留めるといったイメージです。
アメリカにセコイア・キャピタルという名門ベンチャーキャピタルがあります。GoogleやYouTubeなどを発掘し、巨額のリターンを得たことで知られるベンチャーキャピタルですが、Googleを開拓した時の逸話が秀逸です。
スタンフォード大学に、「Google」というものすごい検索エンジンを開発した学生がいると聞きつけたセコイア・キャピタルのジェネラル・パートナーが、さっそくスタンフォード大学へ乗り込み、開発したラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンという二人の大学院生に「モノ」を見せてもらいました。それを見て「こいつはエラいことになる」と確信したジェネラル・パートナーは、その場で二人に白紙の小切手を手渡し、「いくらでもいいから好きな額を書き込んでくれ」と頼んだそうです。そう言われた二人が目を丸くして驚いたのは言うまでもありません。
このように、アメリカのベンチャーキャピタルと日本のベンチャーキャピタルとは、まったく別な事業を営んでいると言わざるを得ない程、根本的に違っているのです。ですので、日本のベンチャーキャピタルが、アメリカのベンチャーキャピタルがシードベンチャーにどんどん投資しているように、シードベンチャーに投資してくれると期待してはならないのです。
なお、セコイア・キャピタルは一時日本にも法人を置いていましたが、大分前に日本から撤退したと聞いています。そのことだけをもってしても、日本がベンチャーキャピタル不毛の地であることをよく示しています。